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美しい連続五度3選

2022/11/18

和声の基本中の基本のルールといったら連続五度と連続八度の禁則です。和声を勉強中の方はこれを避けることに苦しんでいるかもしれません。連続五度や連続八度が禁止される理由は次のようなものがよく上げられます。

  • 声部の独立性を保つため

  • 硬質な響きを避けるため

  • そもそも響きが悪い

確かに、と思う一方で、本当に連続の禁則は声部の独立性を妨げていたり、硬質な響きになってしまっているのでしょうか?

バッハの平均律クラーヴィア曲集第1巻10番ホ短調のフーガは、2声のフーガの中にユニゾンが出てくる珍しいものですが、これはたしかに声部の独立が保たれていません。

また、完全五度は確かに硬質な響きを持っています。それを利用した曲は数多くありますが、私の特に好きな曲は、リゲティの練習曲第8番「金属」です。

しかし、これらのイメージによって、連続八度や連続五度を捉えてしまうのは少しもったいないような気がします。私が後期ルネッサンス・バロック・古典・クラシック音楽の中で、連続八度と連続五度を避けてきたのは、ただ一つの理由によるものだと思っています。それは

  • 中世の響きを避けるため

です。音楽は流行とともに革新を続ける分野です。その中で、中世の古い響きを突然曲の中で用いてしまったら、スタイルが破壊されてしまう、という理由で連続八度や連続五度を避けたのではないかと考えています。

スタイルを保たない、というのは聞き手に強烈な印象を残し、不自然さを感じさせます。逆に言えば、スタイルを克服した自然な用い方をすれば、連続八度・連続五度も問題ないはずです。

そこで、自然に用いられていて、美しい連続五度を3つ選んでみました。

なお、次のような基準を満たしたもののみです。

  • 当時のスタイルからいって禁則である

  • 中世の響きを意図的に狙ったものではない

  • 連続五度をコンセプトとしていない

つまり、連続五度のための連続五度ではない、ということです。

ショパン Sonata No.3 Op.58

3楽章の中間部に非常に美しい連続五度が登場します。

この部分は一時的に旋法的であるため、厳密には機能和声の連続五度の禁則の適用外かもしれませんが、それにしても美しいので選出しました。ソナタ3番全体を通してもっとも静謐な部分であり、神秘的な音楽ですが、そのような響きを作り出している奇跡的な連続五度です。ドビュッシーが用いている平行和音にも似ています。

ショパン Grande Polonaise Brillante Op.22

もう一曲だけ、ショパンの連続五度を紹介させてください。確かに上の連続五度は美しいですが、あまりにも神秘的すぎるため、もう少し自然な連続五度を例を挙げます。

この連続五度は物悲しい旋律の中に登場します。装飾された旋律に隠されていますが、このセクションはずっと連続五度か連続八度で作られています。ここは全曲中のうちアンダンテスピアナートを除けば最も歌う場面で、そのような箇所に連続五度を用いていることは興味深いように思います。

ブラームス Intermezzo Op.118-2

優しく柔らかい響きがありながらも威厳のある名曲、118-2の中に、私の最も好きな連続五度が出てきます。誤解を恐れずに言うなら、連続五度が禁則とされていたのはこの進行を際立たせるためなのではないか、と思うほどです。

この曲にはほかにも連続五度や連続八度が登場しますが、やはりこの部分は飛びぬけて美しいように感じます。さらに、和声的にはV→IVの弱進行となっており、和声学的にはこれも禁則です。このAの音は前半の最高音でクライマックスを形成しており、禁則の乗りこなし方、扱い方が非常に上手いな、と思います。


好きな連続五度を3つ挙げましたが、やはり禁則というだけあって素晴らしい効果を挙げているように思います。逆に連続八度で好きなものはあまり無かったのですが、マタイ受難曲の中に、非常に効果的な連続八度を見つけましたので、それを紹介してこの記事を終わりにしたいと思います。

フルート・オーボエが様々な声部と連続八度を形成しています。これは、別の声部の和音構成音を延長しているだけで、異なる声部ではないため連続八度ではない、と考えることもできますが、さらに追っていくと独立した声部のように振舞ったりもします。私はバロックの管弦楽法に詳しくないため、このような技法がどれほど用いられていたかは知らないのですが、全体の響きが素晴らしいため、ここで紹介することにしました。